忍者ブログ
とりあえず日々考えたことを書いていこうと思う。
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

ストックオプションの新規発行で、「行使の条件」として「業績条項」を付けたい、と。それで具体的な条件は「新株予約権割当契約」により定めるという。これは株主総会(公開会社では取締役会)でその「内容」を決定しているとは言えないので、登記事項となる「行使の条件(会社法第911条3項12号ハ)」としては認められないが、個々の予約権者との個別契約でそのような事項を定めることは差し支えない、というのが実務上の考え方となっている。


「行使の条件」は会社法第236条に定める「内容」には含まれていないが、これは必要的事項の列挙に過ぎず、行使の条件を定めた場合にはこれも新株予約権の「内容」となる(相澤哲ら編『論点解説 新・会社法』p.226.)。新株予約権の内容については法定の決議機関で定めなければならず(同法第238条2項、第240条1項)、新株予約権の行使条件に差を設けること自体は当然に違法というわけではないが、行使の条件も新株予約権の「内容」である以上、会社法238条5項の趣旨に基づき、一つの募集ごとに均等に定めなければならない。逆に言えば、募集ごとに均等に定めている限り、内容において差を設けることは認められる。例えば、従業員であることを条件に行使できる、とか、「ある者が発行済株式総数の20%以上を取得した場合にその者以外の新株予約権者が行使できる」とする条件も可能であるとされる(神田秀樹『会社法(第15版)』p.153、江頭憲治郎『株式会社法(第6版)』p.785.)。株主平等の原則は、新株予約権にも当然に適用されるわけではない。




ただし判例は、投資ファンドによる敵対的買収の際に、防衛目的で株主に対し新株予約権を無償発行した際に、行使の条件として、当該ファンドは行使できない旨を定めた事案につき、「株主平等の原則」の趣旨が及ぶと判示した事案もある(最判平成19・8・7民集61巻5号2215項、ただしこの事案においては会社の企業価値が買収により毀損される場合には、相当性を欠かない限り差別的取り扱いも許容されるとしている。)。




一方、内容の大枠については株主総会(公開会社においては取締役会)において決定する必要があるが、技術的・細目的事項については下位機関に委任することも可能であるとする見解があり、実務においてもそのようなやり方をしている例が見受けられる(荒井邦彦ら編著『新株予約権・種類株式の実務(第2次改訂版)』p.230.)。近時の判例では、株主総会で委任を受けて取締役会がストック・オプションの行使条件を定めた場合において、当該ストック・オプションの発行後にその行使条件を変更する取締役会決議は、明示の委任がない限り、細目的な変更を除き無効であり、また、非公開会社が株主総会決議で行使条件を定めた時は、その行使条件が重要な内容を構成している限りにおいて、当該行使条件に反したストック・オプションの行使は無効原因がある、と判示している(最判平成24・4・24民集66巻6号2908項。)。




重要な内容となる「行使の条件」を定めた場合にはこれを登記する必要が生じるが、細目の委任とはみなせない具体的な事項を個別の「割当契約」によって定めることは、会社法238条5項の趣旨に反し、また、新株予約権の「内容」となる事項を決議機関で決議しているとはみなせないので、認められない、というのが実務の考え方である。仮にこのような定め方をした場合には、当該事項は、発行会社と割当者との間に民法上の債権・債務関係を生じさせるに過ぎず、当該定めは登記事項にならず、第三者対抗要件を有しない、という考え方である。であるから、当然、当該事項の拘束力は債権的効力としてのみ有効である、ということになり、これに違反した行使があった場合には、民法上の債務不履行の責任を問われる形となると思われる。




業績連動型のオプションを付与する場合、個々の割当者ごとに異なる条件を付すインセンティブがあるのはむしろ自然なことであるようにも思えるが、何を新株予約権の「内容」とし、何が債権的合意で足りるのかを整理検討した上で、「内容」となるべき事項は新株予約権の募集事項に明確に落とし込むのが無難だろう、と思料する。

PR
COMMENT
name
title
text
color   Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字
mail
URL
pass
secret
PREV ←  HOME  → NEXT
Copyright (C) 2025 雑記帳 All Rights Reserved.
Photo by 戦場に猫 Template Design by kaie
忍者ブログ [PR]