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とりあえず日々考えたことを書いていこうと思う。
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 吸収分割において、承継会社Aが分割会社Bに対して分割対価として株式以外を交付する場合、分割契約において「当該財産の内容及び数若しくは額又はこれらの算定方法」を定めなければならない(会社法第758条4号ホ)」。


 では、金銭を交付する場合において、分割する事業の価格算定の基準時点(一般的には効力発生日の直前)から効力発生日までの価格変動を見込んだ調整条項を分割契約書に織り込むことは可能だろうか。以下は私見であることをお断りしておく。




 一般的に、グループ会社ではない株式会社間の吸収分割契約において分割の対価を金銭のみと定めている場合、契約締結からクロージングまでの期間の長さを反映して、価格算定の基準時点と効力発生日時点の企業価値(事業価値)の変動を織り込んだ調整条項を分割契約に盛り込むことがあるが、このような事案の「対価」を法律構成的に見ると、会社分割の実行時点で暫定的な支払いを受ける権利にプラスして、その後の対価の調整ないし確定結果に従い追加の支払いを受ける権利、あるいは、一部を返還する義務が付着した「権利」が「対価」であるとする見解がある(酒井竜児編『会社分割ハンドブック』p.90.)。このような見解に立てば「対価」が不明確であるとまでは言えないことになる。




 そもそも、会社法第758条4号ホにおいても「額」に替えて「算定方法」によって対価を定めることを認めている。株式の交付を主として行う場合においても、クロージングまでの期間の資産の評価額の差額を金銭で調整するとする条項も、「算定方法」を定めることで可能となる。




 一例として挙げると、楽天株式会社の公式サイトで公表されている平成25年11月の会社分割(承継会社はケンコーコム株式会社)の事案においては、対価として交付する株式数は、効力発生日前日の承継資産の評価額から承継負債の評価額を控除した額を、承継会社の株価(取締役会決議の直近1ヶ月間の平均値)で除した数とされている。https://corp.rakuten.co.jp/news/press/2013/1126_01.html




 また、他の事例においては、分割会社の事業年度末の貸借対照表における承継事業に関する資産相当額から負債相当額を控除した金額に、効力発生日までの承継事業に関する当該差額の増減を清算し、対価を計算するとしたものもある(対木和夫編『会社分割の法務』pp.92-93.)。




 そもそも、吸収分割契約において分割対価を定めなければならないとされているのは、吸収分割契約につき株主総会の特別決議を要する場合においては、吸収分割の対価が適正かどうかにつき、議決権を有する株主の判断を仰ぎ、株主が合理的な判断を下すのに必要な情報を提供し説明する機会を与えるためである。さらに、株主総会の特別決議を要しない略式・簡易分割(同法796条)に該当する場合においても、承継会社の株主や利害関係人に対し、分割契約の内容、対価の相当性についての事前開示義務(同法794条、同施行規則第192条1号)を求めることで、この要求に答えている。この事前開示義務を果たす限りにおいて、会社法においては、企業再編の対価について、一般的な制限を設けず、上場規則等のソフトローや実務の慣行(投資家の判断)に委ねる立場を採用しているのである(森本滋編『会社法コンメンタール17』pp.312-318.)。




 このような観点からすると、調整条項を含んだ分割契約書の当該定めは、分割方法の「算定方法」を定めたものとして形式的な手続きが取られている限り、一応有効なものとして差し支えないと思われる。




 仮に、このような「算定方法」の定めが不公正であると判断されたとしても、判例・通説はこれを吸収分割の無効原因にはならないとする(江頭憲治郎『株式会社法(第6版)』p.856, p.922, 最判平成24・2・29民集66・3・1784)。判断の基礎となる情報が適切に開示された上で適法な手続きを踏めば事実上、その条件は公正なものと推定される。分割対価の不公正自体は株式買取請求権、取締役らに対する責任追及によって補填されるべきであり、それ自体が法令違反になるわけではない、という考え方である(なお、著しく不公正な対価は無効事由にあたるとする見解も存在する。神田秀樹『会社法(第15版)』pp.340-341.を参照。)。




 商業登記法(以下、「商登法」)第24条10号においては、「登記すべき事項につき無効又は取消しの原因があるとき。」を却下事由と定めているが、「算定方法」が不公正であるかどうかは形式審査の範囲では必ずしも明らかにならない。そして、会社分割の無効は訴えをもってのみ主張することができるとされており(会社法第828条9号)、商登法134条2号においては、訴えをもってのみ無効を主張できる内容の登記について当事者主義を排除している。その反面として、裁判所書記官は、無効判決が確定した場合において登記を嘱託しなければならないとされている(同法第937条3項4号)。さらに、仮に不公正な条件による会社分割が行われたとしても、無効の訴えが六ヶ月以内に提起されなければ、確定的に当該会社分割は有効になり(会社法第828条7号)、組織変更が覆されることはなくなる。




 このような無効の主張に対する制限は会社の法的関係性の安定を保護するためのものであり、このような要請が重視される限り、明白な無効事由が存在しない限り、上記のような「算定方法」の定めをもって無効事由とみなすことは事実上困難であると思われる。よって、上記のような定めは商登法第24条10号の却下事由に該当しない、とするのが相当であり、算定方法の「相当性」を証する書面の添付なども不要であると考える。

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