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商事法務の最新刊で気になった記事。
弁護士の渡辺邦弘氏の「『取締役』の任期と『定時株主総会』の意義」という論考です。




定款において、事業年度が4月1日から翌年の3月31日、定時株主総会を6月に召集すると定めている会社。取締役の任期は選任後1年以内に終了する事業年度のうち最終のものに係る定時株主総会の終結の時までと定めている。




「設問1」
取締役・甲・乙・丙の3人がX年6月末日の定時総会で選任された。ところが、次の年の定時総会の時までに計算書類の作成が間に合わなかったので、X+1年6月に、取締役を選任することのみを目的事項とする株主総会を開いた。甲乙丙の任期満了日はいつか?




「設問2」
この会社がX+1年6月に株主総会を開かなかった場合、取締役・甲・乙・丙の任期はいつ満了するか?




ここで問題となっているのは、「定時株主総会の終結の時まで」の「定時株主総会」をどう捉えるか、という話である。簡単なように思えるが、その内実を突き詰めると案外あやふやになりがちである。この点、定時株主総会の定義に関して学説上はおよそ3種の見解が存在しており、




①所定の時期に開催される株主総会であるとする説(召集時期説)
②計算書類の承認を議題とする総会であるとする説(議題内容説)
③定款所定の時期であっても計算書類の承認を議題としない総会は定時総会ではなく、計算書類の承認を議題とする総会であっても定款所定の時期に遅れて開催された総会は定時総会ではない、とする説(折衷説)




などがある。



②の見解に立てば上記設問の株主総会は定時総会とならないので、役員の任期は切れないのではないか、……と考えるのはナンセンスであることにすぐ気がつくと思う。それが許されるならば取締役の都合でいくらでも任期を伸長できてしまうわけですからね。普通の定時総会なら計算書類の承認を議題とするのは当然なのだが、何らかの事情でそれができない場合も想定され得るし、会社法的には計算書類の承認を議題としない「定時総会」も許されるわけです(ちなみに旧商法では、臨時総会では計算書類の承認・剰余金の配当ができなかった。)。




むしろ、このような場合は、法令の趣旨及び定款の規定の趣旨から「実質的に」任期を判断すべきである、というのが本論の趣旨。当該定款の規定の趣旨は、取締役の任期との関係では、毎年6月に召集される株主総会の終結の時をもって任期を満了させると解するのが合理的であるから、仮に法文理的解釈により、一般的に「定時株主総会」の定義に合致していないとしても、上記事例において招集された株主総会で任期満了とするのが定款規定の趣旨に合致するのではないか、というのである。




もしここで任期が満了しないとすると、設問2のように、株主総会自体が招集されなかったとしたならば、計算書類の承認を議題とする株主総会の終結時まで任期が伸びることとなるようにも思えるが、そもそも計算書類の不備を理由として任期を伸長できるとするのは、不合理である。災害など、不可抗力的な事態を除いては、本来開かれるべきである時期が過ぎれば任期満了となると解するのが相当であり、実務的にもそのような扱いがなされているところである(松井信憲『商業登記ハンドブック(第3版)』p.408.)。




で、ここからが私見なのだけど、




そもそも取締役の任期は定款で定める他に、株主総会の決議によっても任期を短縮できる(会社法第332条1項)。で、あるから、仮に上記設問において取締役の任期が満了していないとしても、株主総会の決議で任期を限ってしまうことができるわけです。もちろん、取締役が不当に総会の招集を怠るようなことがあれば株主には裁判所の許可を得て招集権を発動する余地もあります(同法第287条4項)。で、あるから、上記設問の場合において取締役が「逃げ続ける」ことは現行制度上、難しいわけですね。




1年を超えない範囲で事業年度の末日の変更もできるので(会社計算規則第59条2項)、この場合は、事業年度を変更するタイミングで役員の改選をしないと任期の起算点の問題が生じ得る。例えば、上記設問において、平成28年10月の定時総会において、従来、7月末決算であるのを3月末決算に変更した場合、平成28年10月の定時総会で就任した取締役の任期は、平成29年3月末日を事業年度の末日とする事業年度に係る株主総会の終結時までになる(相澤哲ら編『論点解説 新・会社法』p.281.)。これは実質的には任期の短縮となろう。




また、定款の任期を途中で変更した場合はどうか。この場合も、反対の意思表示がない限り、現状の取締役の任期もそれに合わせて伸長される(昭30・9・12民事甲1886号回答、前掲書、pp.282~283を参照)。逆に任期を短縮した場合で、在任取締役の選任時から起算するとすでに任期満了している場合には、定款変更時が任期満了になる。過去に遡って退任するのではないのである(松井信憲『商業登記ハンドブック(第3版)』p.384.)。




このように、任期が株主総会の決議によっても変更できる取締役の場合、監査役などと違って、任期の起算点が問題となることが多い。議事録などを作成する場合には実際に任期が満了しているのかどうか、定款の規定と合わせて注意深く見ていく必要があるのである。この点について言えば、旧商法の規定のほうが任期に関して自由度が少ない分、起算が容易であり、会社法施行以後の方が、任期に関して自由度が高まった反面、起算が難しくなったという話はよく聞きますね。

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