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募集株式の発行手続きで最低限注意すべきポイントをいくつか挙げてみます。基本事項ですが、割合、補正になりやすい部分です。
①総数引き受け契約を行わない場合、募集事項の決定と割当を正しい機関で行っているか。
②出資金の払い込み期日について。株主に対する通知や、募集事項の期間設定に従って入金されているか。
③現物出資の場合、会社法207条の諸規制に従っているか。
④増加する資本金の計算が正しく行われているか。
非公開会社で取締役会を設置していない会社の場合の募集事項の決定は原則株主総会で行い、割当も株主総会で行います。これについては定款で別段の定めを置くことができます(募集事項の決定は株主総会、割当は取締役へ委任、など)。
公開会社の場合では募集事項の決定も取締役会で行うのが原則です。ここまでは簡単。
で、誤解されがちなのが、非公開会社で取締役会設置会社の場合です。この場合は募集事項の決定を株主総会で行い、割当を取締役会で行うのが原則です(割当機関については、定款で別段の定めが可能ではある。)。
正しい機関で募集決議を行えたとして、次に問題となるのが払い込みの期日もしくは期間の設定です。
既存の株主に割当てを行う場合には払い込み期日、もしくは期間の初日の2週間前までに、株主に対して募集事項などの通知を行う必要があるので(会社法第202条4項)、少なくとも入金の2週間前までに募集事項の決定を済ませておく必要があります。また、公開会社において第三者割当をする場合においても、株主に対する2週間前の通知が必要になります(有価証券報告書を提出している会社については特例あり。同法第201条)。
非公開会社が第三者割当をする場合についても、払い込み期日もしくは期間の初日の「前日」までに割当ての通知をしなければならないと規定されているので、この場合でも募集事項決定→割当て→入金、まで最低2日は要することになります(募集事項の決定と通知に1日、その次の日に入金)。
なお、有利発行に該当する場合の承認決議や、種類株式を発行している場合の特則などの問題もありますが、ここでは割愛します。
③については、募集事項において現物出資の価額を500万以下に定めている場合は問題ありません。それ以上の価額の出資となると、税理士や会計士の価額証明が必要になります(同法207条9項4号)。その他、検査役の選任を要しない場合に該当する場合にはすべて、なんらかの補填作業を要することに注意。現物出資を、会社役員の会社に対する債権によってする方法(所謂、DESと呼ばれる方法)があり、このやり方をする場合には当該債権が十分に特定されている必要がある。また、当該債権は弁済期が当来しており、その価額が負債の帳簿価額以下でない場合には検査役の選任が必要となってしまう。
これに関連して、役員が会社に対する債権を受動債権として払込債務と相殺することは法令上できない(同法208条3項)。現物出資を評価し、あるいは金銭の払込みを定めた規定の脱法になるから、という考え方である。一方で、会社からの相殺、あるいは、株式引受人との相殺契約は禁止されていない、とする見解もあるが、若干の問題は残る(江頭憲次郎『株式会社法』pp.759-760.)。
さて、以上の手続きによって払い込みが完了した後、資本金の計算についてもよくある誤解がある。それは、募集株式の発行の手続きにおいては必ず資本金が増加する、というものである。これはバツで、実は増加しない場合もあるのである。
まず、計算についてだが、これは会社計算規則第14条に規定がある。これを式にすると以下のようになる。
「資本金等増加限度額 = {払込みまたは給付を受けた財産の価額 ー 株式の交付費用} × 株式発行割合 - 自己株式処分差益」
この式の中で、「株式の交付費用」とされる部分は当分の間「0」とする取り扱いとなっており、「株式発行割合」は更に、以下の式で示される。
「株式発行割合 = 当該募集に際して新規発行する株式の数 ÷ (当該募集に際して新規発行する株式の数 + 処分する自己株式の数)」
募集発行の際に新たに株式を発行する必要は必ずしもなく、払込みに対して自己株式を交付することも差し支えない(会社法第199条1項)。そして、すべてを自己株式の処分によって行えば、資本金増加限度額の式の右辺における「株式発行割合」がゼロとなるので、増加する資本金の額もゼロとなる(青山修『会社計算書面と商業登記』pp.95-98.など参照。)。
更に、すべての株式を新規に発行した場合でも、共通支配下の取引により財産の給付をした会社における当該財産の帳簿価額を引き継ぐべき場合などにおいて、簿価債務超過の事業を譲り受ける現物出資をした場合などは、その他利益剰余金の減少のみが生じる場合もある(相澤哲ら編『論点解説 新・会社法』p.209.)。
株式と資本金の間には基本的には一対一対応の関係が成り立つが、会社法においては、双方ともに独立の変数として観念されているので、注意が必要となるわけです。まあ、原則論としては一般的な観念が通用するのだけど、そうじゃない場合もあり得る、という話ですね。この話は設立時の資本金についても当てはまります。基本的には、払い込みをした金額のうち、2分の1以上が資本金になるわけですが、現物出資財産の評価次第では、資本金が「0円」になる場合もあります。この時でも、当然のことながら、株主は株式の発行を受けているので、発行済株式数はゼロにはならないわけです。
まあ、だいたいは常識的な観念が通用するのですが、現物出資の場合は何にせよ、注意が必要ということです。