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 去年12月に最高裁が、マンション管理組合の理事長は理事会の多数決で解任できる、とする判断を示したわけだけど、これだけだとインパクトが伝わらないように感じた人も多いと思う。
 

 
 そもそも、管理組合について定める「建物の区分所有等に関する法律(以下、「区分所有法」)」では、理事の選任について以下のような条文になっています。




第四十九条 管理組合法人には、理事を置かなければならない。
2 理事が数人ある場合において、規約に別段の定めがないときは、管理組合法人の事務は、理事の過半数で決する。
3 理事は、管理組合法人を代表する。
4 理事が数人あるときは、各自管理組合法人を代表する。
5 前項の規定は、規約若しくは集会の決議によつて、管理組合法人を代表すべき理事を定め、若しくは数人の理事が共同して管理組合法人を代表すべきことを定め、又は規約の定めに基づき理事の互選によつて管理組合法人を代表すべき理事を定めることを妨げない。




 条文上では、理事は「各自代表」が原則であり、規約の定めや集会の決議、あるいは理事の互選によって理事の中から代表理事(理事長)を定めることもできる、という構成になっている。



 管理組合法人は登記簿上、代表権を有する者を登記しなければならないのだが、ここでいう「代表権を有する者」とは、「理事」のことである。もし理事の中から代表理事を定めていた時には「代表理事」が理事として登記されることになる。




 理事の選任について区分所有法で定めている事項はこれしかない。



 解任についての条文は以下の通り。




第二十五条 区分所有者は、規約に別段の定めがない限り集会の決議によつて、管理者を選任し、又は解任することができる。
2 管理者に不正な行為その他その職務を行うに適しない事情があるときは、各区分所有者は、その解任を裁判所に請求することができる。




 理事の解任は区分所有者の共同体である集会の決議で解任できるとするのが原則であり、理事の共同体である理事会において代表理事を解任できる、とはどこにも書いていない。仮にそのような定めが規約にあれば可能であると解せる余地もあるが、代表理事も理事である以上、区分所有者の集会でないと解任できないのではないか?というのが一つの考え方であった。




 このような解釈の不都合が生まれる根本には、国土交通省が定めているマンション管理規約の雛形に、理事長(代表理事)の解任についての定めが置かれていないことにもよる。標準雛形の第35条3項では以下のようになっている。




「理事長、副理事長及び会計担当理事は、理事の互選により選任する。」




 理事長は決して「ワンマン」運営を期待されているわけではなく、標準管理規約においても、理事会の決議事項を尊重することが求められていることは以下の条項からも読み取れる。




「第38条 理事長は、管理組合を代表し、その業務を統括するほか、次の各号に掲げる業務を遂行する。
一  規約、使用細則等又は総会若しくは理事会の決議により、理事長の職務として定められた事項
二  理事会の承認を得て、職員を採用し、又は解雇すること。
2  理事長は、区分所有法に定める管理者とする。
3  理事長は、通常総会において、組合員に対し、前会計年度における管理組合の業務の執行に関する報告をしなければならない。
4  理事長は、理事会の承認を受けて、他の理事に、その職務の一部を委任することができる。」




 また、「規約及び使用細則等に定めのない事項については、区分所有法その他の法令の定めるところによる。」とあり、「規約、使用細則等又は法令のいずれにも定めのない事項については、総会(集会)の決議により定める。」とあることから、「理事長」の解任については集会によるべきである(「規約」にも「区分所有法」にも規定がないため)、と解することも一応はできそうである。




 区分所有法上の「集会」は、会社における「株主総会」と同様に万能機関とされていることから、理事の中の第一人者である理事長を解任する権限を持つことについては殆ど争いがないようである。つまり、集会を開いて理事長を解任できる状況にあれば、理事会で理事長を解任できるか否か?が争いになることはないわけです。問題は、大規模なマンションで区分所有者の集会の充足数を満たすことが難しい場合、あるいは、区分所有者間のコミュニケーションが上手くとれておらず、集会を開くことそのものが困難な状況にある場合、または、管理組合の内部で派閥抗争があり、修繕計画の見積もりや策定の際にデッドロックに嵌り、理事会の運営に支障をきたしているような場合。




 そしてこのような事態は、マンションの「老朽化」や「空室化」の進展、将来の「タワマン」のスラム化の危険性などとともに、のっぴきならぬものとなっていくことが予想されるために、社会問題として捉える必要もある。だからこそ、この判例が注目されたわけです。少し長くなりますが、判決文の重要箇所を引用してみます。




「本件規約は,理事長を区分所有法に定める管理者とし(43条2項),役員である理事に理事長等を含むものとした上(40条1項),役員の選任及び解任について総会の決議を経なければならない(53条13号)とする一方で,理事は,組合員のうちから総会で選任し(40条2項),その互選により理事長を選任する(同条3項)としている。これは,理事長を理事が就く役職の1つと位置付けた上,総会で選任された理事に対し,原則として,その互選により理事長の職に就く者を定めることを委ねるものと解される。そうすると,このような定めは,理事の互選により選任された理事長について理事の過半数の一致により理事長の職を解き,別の理事を理事長に定めることも総会で選任された理事に委ねる趣旨と解するのが,本件規約を定めた区分所有者の合理的意思に合致するというべきである。」




 先日、「カトリック教会の大司教は辞任できるか?」という問題を少し紹介してみましたが、そこでの「辞任(あるいは退任)」と「就任」の関係についての考察に通じてくるものがあるように思います。つまり、規約においては理事長の「選任」についてしか規定されていないけれども、代表権を有する者のポストが一つしかない状況においては、「A氏を選任する」という意思表示は翻って、「B氏を辞めさせる」という意思表示に他ならないのではないか?と推認できる場合がある、というわけです。これを判決文中の表現に置き換えれば、「このような定めは、理事の互選により選任された理事長について理事の過半数の一致により理事長の職を解き、別の理事を理事長に定めることも総会で選任された理事に委ねる趣旨と解するのが、本件規約を定めた区分所有者の合理的意思に合致する」のではないか?というわけです。




 誰かを選任すること、と、解任すること、は全く別の話のように思えるけれども、場合によっては、コインの表裏の問題として捉えることができる。一方で、カトリック大司教や八幡神社の宮司の「意思」が問われなければならなかったように、ここでも、地位を退くことになる「理事長」の意思の探究、は求められて然るべきであるように思います。



 この問題はもちろん、宗教法人における所謂「充て職」の問題とは別なのだけれど、「本人の意思」の探究と「選任機関の規約の趣旨」の両面から、辞任、解任、退任、の是非について考えなければならない、という点では共通しているのです。

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