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今日はお寺の住職さんの選任の関係で疑義がある事案を調べていたのですが、タイムリーなので神社の話をします(なんでやねん)。
まず、原則として宗教法人というのは「法人」としての性質(世俗性)と「宗教団体」としての性質(宗教性)を併せ持つという特徴があります。
宗教法人について定める宗教法人法(以下、「宗法」)では、「法人」としての宗教法人が定めるべき事項を規定しているほかは、多くの細則について宗教団体が任意で定める「規則」に自治を委ねています。この「規則」というのは会社でいうところの「定款」ですね。この規則を都道府県知事に認証してもらい、登記をすることで、宗教法人は成立するわけです(宗法第15条)。
宗教法人にはその機関として、「責任役員」が3名以上、そのうち一人を「代表役員」として定めなければなりません。この「責任役員」とか「代表役員」というのはあくまで法律上の資格名であり、規則上では「宮司」であったり、「住職」であったりするわけです。神社であれば、代表役員は「宮司」です(例外はあるかもしれません)(宗法第18条)。
法律上の規律は宗教法人に及ばない、と思う人もいるかもしれませんが、そんなことはありません。同法第18条第5項では以下のように規定されています。
「代表役員及び責任役員は、常に法令、規則及び当該宗教法人を包括する宗教団体が当該宗教法人と協議して定めた規程がある場合にはその規程に従い、更にこれらの法令、規則又は規程に違反しない限り、宗教上の規約、規律、慣習及び伝統を十分に考慮して、当該宗教法人の業務及び事業の適切な運営をはかり、その保護管理する財産については、いやしくもこれを他の目的に使用し、又は濫用しないようにしなければならない。」
また、根本規定である「規則」を変更するためには会社における定款変更と類似のプロセスを経なければなりません。すなわち、
「宗教法人は、規則を変更しようとするときは、規則で定めるところによりその変更のための手続をし、その規則の変更について所轄庁の認証を受けなければならない。この場合において、宗教法人が当該宗教法人を包括する宗教団体との関係(以下「被包括関係」という。)を廃止しようとするときは、当該関係の廃止に係る規則の変更に関し当該宗教法人の規則中に当該宗教法人を包括する宗教団体が一定の権限を有する旨の定がある場合でも、その権限に関する規則の規定によることを要しないものとする。
2 宗教法人は、被包括関係の設定又は廃止に係る規則の変更をしようとするときは、第二十七条の規定による認証申請の少くとも二月前に、信者その他の利害関係人に対し、当該規則の変更の案の要旨を示してその旨を公告しなければならない」(宗法第26条)
ここでいう、被包括関係というのは、「神社本庁」と「富岡八幡宮」の関係をイメージしてもらえればわかりやすいと思います。宗教団体は宗教法人法第2条において二種類に区分されており、第1項で定義される、「礼拝の施設を備える神社、寺院、教会、修道院その他これらに類する団体」を、「単位宗教団体」と呼び、第2項で定義される、「前号に掲げる団体を包括する教派、宗派、教団、教会、修道会、司教区その他これらに類する団体」を、「包括宗教団体」と呼びます。神社本庁に係属していた時期の富岡八幡宮は宗教法人法上は、「被包括宗教団体」(すなわち、神社本庁に「包括」される)に当たるわけです。
で、26条2項にあるように、被包括関係の廃止をする場合には「信者その他の利害関係人」に対して2か月以上の期間をあけて公告しなければならない。なので富岡八幡宮はおそらくこのプロセスを経て、神社本庁から離脱しているはずです。このことは、「宮司」を選任する手続きについて重要な意味を持ちます。なぜなら、宮司は宗教法人の「代表役員」にあたるので、登記をしなければその選任について第三者に対抗できず、宮司を選任するためには包括宗教団体の承認が不可欠だからです。
代表役員の選任方法については宗教法人法に規定はなく、規則の定めるところによる。この定め方には講学上、三つのあり方があるとされます。①充当制、②任命制、③選挙制、の三つです。
「充当制」というのは、宗教法人の母体団体(すなわち「宗教団体」)の自治規範によって選任された宗教主宰者である住職、宮司などが、そのまま代表役員に充てられる場合。「任命制」とは、包括宗教団体の統理者等が被包括宗教法人の代表役員を直接任命する場合。「選挙制」とは、代表役員を選挙、又は規則で定める選任機関によって選任する場合です。
例えば、全国に約8万社あるとされる神社を統括する宗教法人「神社本庁」の内規では、「神社は宮司をもって代表役員とする。」と定められていますが、これは宗教団体上の「宮司」をもって、宗教法人法上の「代表役員」に充てる、ということなのです。これがすなわち充当制です。
ですから、この場合においては、富岡八幡宮の「宮司」は神社本庁および富岡八幡宮の内規によって「代表役員」に充当されるので、「宗教法人・富岡八幡宮」が「宗教法人・神社本庁」と包括関係にあるならば(あくまで法律上の包括関係であることに注意してください。「宗教団体」として各神社の序列とは全く別問題なのです。)、その選任手続においては神社本庁の内規と富岡八幡宮の内規が両方関わってくることになります。
それゆえ、登記手続きにおいては富岡八幡宮の内規、および神社本庁の内規と、代表役員の選任を証する書面についての認証が必要になります。この内規には、通常以下のような文言が組み込まれています。
「神社の代表役員は、神社の宮司の職にある者をもって充てる。神社の代表役員は、神社本庁の統理から宮司に任命される。宮司の進退は、代表役員以外の役員の具申により、統理が行う。」
ここで「統理」というのは、包括宗教団体(ここでは神社本庁)の宗教主管者を謂います。すなわち、ここで言っているのは、神社本庁の統理が包括下の神社の具申により「宮司」を任命するということ、そしてその「宮司」が、宗教法人法上の「代表役員」として充てられる、ということなのです。この場合ですと、登記申請において具体的に求められる添付書面は、宮司の選任を証する書面として、神社本庁の統理による宮司の任命書(辞令)、神社本庁の規則と、富岡八幡宮の規則の抜粋、となります。変更を証する書面については宗教法人法第63条第3項において、「規則」については各種法人等登記規則の第5条に規定されています。
さて、この包括関係から離脱した場合にはどうなるでしょうか?
事件の記録によれば、「茂永容疑者の解任後は父親が宮司に復帰していたが、高齢のため2010年に退任。これを受けて、長子さんを宮司にするよう、八幡宮は全国の神社を統括する神社本庁に具申した。ところが、神社本庁から回答がなく、数年にわたり宮司が任命されない状態が続いていた。2017年に入って任命しない理由を照会する文書を神社本庁に送ったが、返事がなかったため、神社本庁を9月28日に離脱。その後、長子さんが宮司になったという。」とされているところから、時系列的には、2017年の9月の離脱後は、包括関係を解消した状態で現宮司を選任していることになります。これが事実だとすれば、富岡八幡宮は宗教法人法上の包括関係を離れ、「単立宗教法人」となっているので、代表役員の選任には神社本庁の認証は求められないことになります。
なお顧問弁護士の話によれば、現在「宮司代務者」を選任して一時的に社務を取り仕切ることになるとのことですが、この宮司代務者というのは宗教法人法では「代表役員代務者」となります。代表役員代務者とは、「代表役員又は責任役員が死亡その他の事由に因つて欠けた場合において、すみやかにその後任者を選ぶことができないとき。」又は、「代表役員又は責任役員が病気その他の事由に因つて三月以上その職務を行うことができないとき。」に置かなければならないものとされています(宗法第26条)。あくまで臨時に置かれるものですが、法律上の代表権限を有しているのでこれも登記事項になるのです。今後は内規に従って、正式に代表役員が置かれることになるものと思われます。