忍者ブログ
とりあえず日々考えたことを書いていこうと思う。
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

 重要先例に関する考え方が資格者内でも分かれている事案があり、法務省民事局商事課としてはどのような考え方をしているのか、あるいは実務家としてはどのような考え方をすべきなのか、少し整理する必要があると考えている。




 その先例とは、以下のようなものである。




「定時株主総会において現任取締役の全員の将来の予選をなし、候補者は全員承諾をし、同日、取締役会において従前の取締役全員で将来の代表取締役を予選し、候補者は承諾をした。この場合において、将来の任期満了後直ちに従前の役員全員が重任(再任)されることの登記は受理できる。」




 ただし、これには条件が付与されており、①予選決議当時の取締役と再選後の取締役が全員同じメンバーであること、②予選の期間が合理的な期間であること、が必要である(昭和41・1・20民事甲第271号民事局長回答)。




 この先例の基本的な考え方はこうである。以下は私見による。




 会社法第362条3項では、「取締役会は、取締役の中から代表取締役を選定しなければならない。」としており、これは、現任取締役の中から代表取締役を定める権限を取締役会に与えることを明確に規定したものである。取締役は株主によって信任され、その職務を行い、会社の代表者である代表取締役は、その株主の信任を受けた取締役が構成する取締役会によって選ばれることに、その正統性の根拠がある。



 取締役は、任期が満了すれば株主の信任を再び問わなければならないのであるから、任期満了直前の時期に行った将来の代表選任決議は、その予選を行ったメンバーが次の定時株主総会でも再選されることで、初めてその効力を付与されると考えられる。仮に現任取締役と、予選された取締役が一人でも異なるとすれば、現任取締役で構成される取締役会で選任される将来の代表取締役の正統性を担保できなくなるので、これは認められない。



 株主は、取締役に対して、代表取締役を選任する権限を付託しているのであるから、現行の株主の意向を反映していない取締役が構成する取締役会の決議にはそもそも株主の意向が十全に反映されているとは言えない。現任取締役が予選決議で全員再選されるならば、同じ取締役によって構成される取締役会が決議する、将来の代表取締役の予選にも正統性の根拠があると言えるから、これは認めてよい。




 つまりポイントは、定時株主総会で任期満了となる取締役が来期も再選されることが確実であるか否か、に係ってくることになる。




 こうしたポイントを踏まえて、事例ごとにこの考え方を検討してみる(適宜、アレンジを加えている)。




<事例①>
取締役ABC(代表取締役A)の取締役会設置会社において、3月26日の臨時株主総会でDを4月1日付で取締役に選任(予選)するとともに、同日の取締役会で4月1日からの代表取締役としてDを予選することができるか。




 これは、できない。なぜならば、3月26日時点ではDは取締役ではないため、予選決議を行う取締役会に参加できず、従って、Dが取締役に選任されることを前提とした代表取締役の予選決議は取締役会決議として有効にならないからである。Dがメンバーに含まれていない取締役会の決議においてDが取締役の地位に選任されることを前提としたDの代表選任決議を行うことには何ら正統性がないのである。 



<事例②>
取締役ABCD(代表取締役A)の取締役会設置会社において、3月20日の取締役会において、4月1日付で増員代表取締役Bを選定(予選)し、同日、同人はその就任を承諾。その後、3月28日に取締役Dが辞任。4月1日に、予選で選任された代表取締役Bが就任することは可能か。なお、当該会社の事業年度は1月1日から12月31日までである。




 先ほどの先例を中途半端に理解していると、取締役会の予選後にメンバーが変わっているのだから、これは受理できないのではないか、と判断する人もいるかもしれないが、事業年度に着目すれば、これはABCDの任期中に代表取締役を予選しているのであり、現任の4人が行った予選の効果は事業年度を跨ぐことがない。従って、定時株主総会で新たに信任を受けなくとも、当該取締役が構成する取締役会が行った予選決議は完全に有効なものと解される。




<事例③>
取締役ABCD(代表取締役A)の取締役会設置会社において、3月31日付でAが一身上の都合により取締役を辞任することになり、代表取締役を退任することになるため、3月20日の取締役会において、4月1日付で後任代表取締役Bを選任(予選)し、同日、同人は就任承諾。3月31日にAが辞任届を出し、4月1日付で代表取締役Bが就任する登記は受理可能か。なお、事業年度は事例②と同様である。




 これも、事例②と考え方は同じ。事業年度を跨いで予選を行っているわけではないので、3月20日の取締役会の予選決議には正統性の担保がある。将来Aが辞任し、新代表が就任するまでの間にメンバーが変わるとしても、現行の株主に信任を受けているメンバーによって構成される取締役会の決議に瑕疵はない。従って、Bの代表取締役への就任は不確定な状況に左右されることなく、完全に有効なものである。
 むしろ、このような事案において、Aが「辞任」ではなく、「死亡」した場合においても条件は同じである。本事例のように、代表取締役が将来退任することが予定されている場合のみならず、突発的な事態が生じたことで予選決議時のメンバーと新代表就任時のメンバーに差異が生じる場合において、このような予選決議に瑕疵があると解することは不合理な結果を生じるわけで、そのような観点からもこの結論を支持し得る根拠がある。




<事例④>
取締役ABCD(代表取締役A)の取締役会設置会社において、3月20日の取締役会で4月1日付で代表取締役Aを選任(予選)した。その後、3月26日の臨時株主総会において取締役BCDの3人が解任され、新たに取締役EFGが就任した。4月1日付で代表取締役Aが就任する登記は受理可能か。なお、事業年度は事例②と同様である。




 A以外のすべてのメンバーが変わったことで、多数決を原理とする取締役会のパワーバランスが著しく変化したことは事実であろうが、このことはAの代表取締役予選決議に何ら影響を及ぼさないと考えられる。というのは、仮にEFGがAの代表選任に異議を持っているとするなら、4月1日以降の取締役会においていつでも解任できるからである。ここでAを代表取締役とする予選決議を認めたとしても、予選の期間が合理的であれば、結果として株主共通の利益を著しく損じることはなく、また、Aの代表権についていつでも解任権を発動できる状況にあることから、これを認めない場合の不利益と比較しても、先例の考え方から外れるものになるとは言えない。




 そもそも、こうした事案においては、①「決議の成立自体に条件又は期限が付されているのか」、あるいは、②「決議自体は有効に成立し、単にその効力発生に条件又は期限が付されているのか」、を分けて考える必要があると思われる。




 任期満了前の取締役が構成する取締役会において行われる代表取締役の予選は、決議そのものの成立が、定時株主総会で再選されること、すなわち、株主によって信任を受けることを条件としている。それに対し、事業年度途中における同様の予選は、「決議の効力発生に期限が付されているもの」と考えることができる。この場合、決議そのものは完全に有効に成立しているのであるから、その後の事情の変更は、その決議自体に影響を及ぼさない。



 しかし、上記①においては、決議の成立自体に条件が付されていることから(具体的には、現任取締役全員の再任)、この条件の不成就によって、当該決議は確定的にその根拠を失う。謂わば、その決議には「正統性がなくなる」のである。一方で、事業年度中の取締役が行った予選行為は株主の信任を受け、その正統な権限付与によって将来の代表取締役を選定しているのであり、その行為には「正統性がある」、と言えるだろう。




 ここまで意図して「正統性」という表現を用いてきたが、これは、会社代表者としての「代表取締役」とは、株主から取締役を通して、間接的に、与えられた正統性があり、会社法第362条3項はその根拠を具現化したものであり、昭和41年の先例は、その主旨を強調したものと考えることができるからである。このような考え方を糸筋として、個別事案ごとに先例の射程をより詳細に検討する必要があると感じている。

PR

 吸収分割において、承継会社Aが分割会社Bに対して分割対価として株式以外を交付する場合、分割契約において「当該財産の内容及び数若しくは額又はこれらの算定方法」を定めなければならない(会社法第758条4号ホ)」。


 では、金銭を交付する場合において、分割する事業の価格算定の基準時点(一般的には効力発生日の直前)から効力発生日までの価格変動を見込んだ調整条項を分割契約書に織り込むことは可能だろうか。以下は私見であることをお断りしておく。




 一般的に、グループ会社ではない株式会社間の吸収分割契約において分割の対価を金銭のみと定めている場合、契約締結からクロージングまでの期間の長さを反映して、価格算定の基準時点と効力発生日時点の企業価値(事業価値)の変動を織り込んだ調整条項を分割契約に盛り込むことがあるが、このような事案の「対価」を法律構成的に見ると、会社分割の実行時点で暫定的な支払いを受ける権利にプラスして、その後の対価の調整ないし確定結果に従い追加の支払いを受ける権利、あるいは、一部を返還する義務が付着した「権利」が「対価」であるとする見解がある(酒井竜児編『会社分割ハンドブック』p.90.)。このような見解に立てば「対価」が不明確であるとまでは言えないことになる。




 そもそも、会社法第758条4号ホにおいても「額」に替えて「算定方法」によって対価を定めることを認めている。株式の交付を主として行う場合においても、クロージングまでの期間の資産の評価額の差額を金銭で調整するとする条項も、「算定方法」を定めることで可能となる。




 一例として挙げると、楽天株式会社の公式サイトで公表されている平成25年11月の会社分割(承継会社はケンコーコム株式会社)の事案においては、対価として交付する株式数は、効力発生日前日の承継資産の評価額から承継負債の評価額を控除した額を、承継会社の株価(取締役会決議の直近1ヶ月間の平均値)で除した数とされている。https://corp.rakuten.co.jp/news/press/2013/1126_01.html




 また、他の事例においては、分割会社の事業年度末の貸借対照表における承継事業に関する資産相当額から負債相当額を控除した金額に、効力発生日までの承継事業に関する当該差額の増減を清算し、対価を計算するとしたものもある(対木和夫編『会社分割の法務』pp.92-93.)。




 そもそも、吸収分割契約において分割対価を定めなければならないとされているのは、吸収分割契約につき株主総会の特別決議を要する場合においては、吸収分割の対価が適正かどうかにつき、議決権を有する株主の判断を仰ぎ、株主が合理的な判断を下すのに必要な情報を提供し説明する機会を与えるためである。さらに、株主総会の特別決議を要しない略式・簡易分割(同法796条)に該当する場合においても、承継会社の株主や利害関係人に対し、分割契約の内容、対価の相当性についての事前開示義務(同法794条、同施行規則第192条1号)を求めることで、この要求に答えている。この事前開示義務を果たす限りにおいて、会社法においては、企業再編の対価について、一般的な制限を設けず、上場規則等のソフトローや実務の慣行(投資家の判断)に委ねる立場を採用しているのである(森本滋編『会社法コンメンタール17』pp.312-318.)。




 このような観点からすると、調整条項を含んだ分割契約書の当該定めは、分割方法の「算定方法」を定めたものとして形式的な手続きが取られている限り、一応有効なものとして差し支えないと思われる。




 仮に、このような「算定方法」の定めが不公正であると判断されたとしても、判例・通説はこれを吸収分割の無効原因にはならないとする(江頭憲治郎『株式会社法(第6版)』p.856, p.922, 最判平成24・2・29民集66・3・1784)。判断の基礎となる情報が適切に開示された上で適法な手続きを踏めば事実上、その条件は公正なものと推定される。分割対価の不公正自体は株式買取請求権、取締役らに対する責任追及によって補填されるべきであり、それ自体が法令違反になるわけではない、という考え方である(なお、著しく不公正な対価は無効事由にあたるとする見解も存在する。神田秀樹『会社法(第15版)』pp.340-341.を参照。)。




 商業登記法(以下、「商登法」)第24条10号においては、「登記すべき事項につき無効又は取消しの原因があるとき。」を却下事由と定めているが、「算定方法」が不公正であるかどうかは形式審査の範囲では必ずしも明らかにならない。そして、会社分割の無効は訴えをもってのみ主張することができるとされており(会社法第828条9号)、商登法134条2号においては、訴えをもってのみ無効を主張できる内容の登記について当事者主義を排除している。その反面として、裁判所書記官は、無効判決が確定した場合において登記を嘱託しなければならないとされている(同法第937条3項4号)。さらに、仮に不公正な条件による会社分割が行われたとしても、無効の訴えが六ヶ月以内に提起されなければ、確定的に当該会社分割は有効になり(会社法第828条7号)、組織変更が覆されることはなくなる。




 このような無効の主張に対する制限は会社の法的関係性の安定を保護するためのものであり、このような要請が重視される限り、明白な無効事由が存在しない限り、上記のような「算定方法」の定めをもって無効事由とみなすことは事実上困難であると思われる。よって、上記のような定めは商登法第24条10号の却下事由に該当しない、とするのが相当であり、算定方法の「相当性」を証する書面の添付なども不要であると考える。

募集株式の発行手続きで最低限注意すべきポイントをいくつか挙げてみます。基本事項ですが、割合、補正になりやすい部分です。





①総数引き受け契約を行わない場合、募集事項の決定と割当を正しい機関で行っているか。
②出資金の払い込み期日について。株主に対する通知や、募集事項の期間設定に従って入金されているか。
③現物出資の場合、会社法207条の諸規制に従っているか。
④増加する資本金の計算が正しく行われているか。





非公開会社で取締役会を設置していない会社の場合の募集事項の決定は原則株主総会で行い、割当も株主総会で行います。これについては定款で別段の定めを置くことができます(募集事項の決定は株主総会、割当は取締役へ委任、など)。




公開会社の場合では募集事項の決定も取締役会で行うのが原則です。ここまでは簡単。




で、誤解されがちなのが、非公開会社で取締役会設置会社の場合です。この場合は募集事項の決定を株主総会で行い、割当を取締役会で行うのが原則です(割当機関については、定款で別段の定めが可能ではある。)。




正しい機関で募集決議を行えたとして、次に問題となるのが払い込みの期日もしくは期間の設定です。




既存の株主に割当てを行う場合には払い込み期日、もしくは期間の初日の2週間前までに、株主に対して募集事項などの通知を行う必要があるので(会社法第202条4項)、少なくとも入金の2週間前までに募集事項の決定を済ませておく必要があります。また、公開会社において第三者割当をする場合においても、株主に対する2週間前の通知が必要になります(有価証券報告書を提出している会社については特例あり。同法第201条)。




非公開会社が第三者割当をする場合についても、払い込み期日もしくは期間の初日の「前日」までに割当ての通知をしなければならないと規定されているので、この場合でも募集事項決定→割当て→入金、まで最低2日は要することになります(募集事項の決定と通知に1日、その次の日に入金)。




なお、有利発行に該当する場合の承認決議や、種類株式を発行している場合の特則などの問題もありますが、ここでは割愛します。




③については、募集事項において現物出資の価額を500万以下に定めている場合は問題ありません。それ以上の価額の出資となると、税理士や会計士の価額証明が必要になります(同法207条9項4号)。その他、検査役の選任を要しない場合に該当する場合にはすべて、なんらかの補填作業を要することに注意。現物出資を、会社役員の会社に対する債権によってする方法(所謂、DESと呼ばれる方法)があり、このやり方をする場合には当該債権が十分に特定されている必要がある。また、当該債権は弁済期が当来しており、その価額が負債の帳簿価額以下でない場合には検査役の選任が必要となってしまう。




これに関連して、役員が会社に対する債権を受動債権として払込債務と相殺することは法令上できない(同法208条3項)。現物出資を評価し、あるいは金銭の払込みを定めた規定の脱法になるから、という考え方である。一方で、会社からの相殺、あるいは、株式引受人との相殺契約は禁止されていない、とする見解もあるが、若干の問題は残る(江頭憲次郎『株式会社法』pp.759-760.)。




さて、以上の手続きによって払い込みが完了した後、資本金の計算についてもよくある誤解がある。それは、募集株式の発行の手続きにおいては必ず資本金が増加する、というものである。これはバツで、実は増加しない場合もあるのである。




まず、計算についてだが、これは会社計算規則第14条に規定がある。これを式にすると以下のようになる。




「資本金等増加限度額 = {払込みまたは給付を受けた財産の価額 ー 株式の交付費用} × 株式発行割合 - 自己株式処分差益」




この式の中で、「株式の交付費用」とされる部分は当分の間「0」とする取り扱いとなっており、「株式発行割合」は更に、以下の式で示される。




「株式発行割合 = 当該募集に際して新規発行する株式の数 ÷ (当該募集に際して新規発行する株式の数 + 処分する自己株式の数)」




募集発行の際に新たに株式を発行する必要は必ずしもなく、払込みに対して自己株式を交付することも差し支えない(会社法第199条1項)。そして、すべてを自己株式の処分によって行えば、資本金増加限度額の式の右辺における「株式発行割合」がゼロとなるので、増加する資本金の額もゼロとなる(青山修『会社計算書面と商業登記』pp.95-98.など参照。)。




更に、すべての株式を新規に発行した場合でも、共通支配下の取引により財産の給付をした会社における当該財産の帳簿価額を引き継ぐべき場合などにおいて、簿価債務超過の事業を譲り受ける現物出資をした場合などは、その他利益剰余金の減少のみが生じる場合もある(相澤哲ら編『論点解説 新・会社法』p.209.)。




株式と資本金の間には基本的には一対一対応の関係が成り立つが、会社法においては、双方ともに独立の変数として観念されているので、注意が必要となるわけです。まあ、原則論としては一般的な観念が通用するのだけど、そうじゃない場合もあり得る、という話ですね。この話は設立時の資本金についても当てはまります。基本的には、払い込みをした金額のうち、2分の1以上が資本金になるわけですが、現物出資財産の評価次第では、資本金が「0円」になる場合もあります。この時でも、当然のことながら、株主は株式の発行を受けているので、発行済株式数はゼロにはならないわけです。




まあ、だいたいは常識的な観念が通用するのですが、現物出資の場合は何にせよ、注意が必要ということです。

商事法務の最新刊で気になった記事。
弁護士の渡辺邦弘氏の「『取締役』の任期と『定時株主総会』の意義」という論考です。




定款において、事業年度が4月1日から翌年の3月31日、定時株主総会を6月に召集すると定めている会社。取締役の任期は選任後1年以内に終了する事業年度のうち最終のものに係る定時株主総会の終結の時までと定めている。




「設問1」
取締役・甲・乙・丙の3人がX年6月末日の定時総会で選任された。ところが、次の年の定時総会の時までに計算書類の作成が間に合わなかったので、X+1年6月に、取締役を選任することのみを目的事項とする株主総会を開いた。甲乙丙の任期満了日はいつか?




「設問2」
この会社がX+1年6月に株主総会を開かなかった場合、取締役・甲・乙・丙の任期はいつ満了するか?




ここで問題となっているのは、「定時株主総会の終結の時まで」の「定時株主総会」をどう捉えるか、という話である。簡単なように思えるが、その内実を突き詰めると案外あやふやになりがちである。この点、定時株主総会の定義に関して学説上はおよそ3種の見解が存在しており、




①所定の時期に開催される株主総会であるとする説(召集時期説)
②計算書類の承認を議題とする総会であるとする説(議題内容説)
③定款所定の時期であっても計算書類の承認を議題としない総会は定時総会ではなく、計算書類の承認を議題とする総会であっても定款所定の時期に遅れて開催された総会は定時総会ではない、とする説(折衷説)




などがある。



②の見解に立てば上記設問の株主総会は定時総会とならないので、役員の任期は切れないのではないか、……と考えるのはナンセンスであることにすぐ気がつくと思う。それが許されるならば取締役の都合でいくらでも任期を伸長できてしまうわけですからね。普通の定時総会なら計算書類の承認を議題とするのは当然なのだが、何らかの事情でそれができない場合も想定され得るし、会社法的には計算書類の承認を議題としない「定時総会」も許されるわけです(ちなみに旧商法では、臨時総会では計算書類の承認・剰余金の配当ができなかった。)。




むしろ、このような場合は、法令の趣旨及び定款の規定の趣旨から「実質的に」任期を判断すべきである、というのが本論の趣旨。当該定款の規定の趣旨は、取締役の任期との関係では、毎年6月に召集される株主総会の終結の時をもって任期を満了させると解するのが合理的であるから、仮に法文理的解釈により、一般的に「定時株主総会」の定義に合致していないとしても、上記事例において招集された株主総会で任期満了とするのが定款規定の趣旨に合致するのではないか、というのである。




もしここで任期が満了しないとすると、設問2のように、株主総会自体が招集されなかったとしたならば、計算書類の承認を議題とする株主総会の終結時まで任期が伸びることとなるようにも思えるが、そもそも計算書類の不備を理由として任期を伸長できるとするのは、不合理である。災害など、不可抗力的な事態を除いては、本来開かれるべきである時期が過ぎれば任期満了となると解するのが相当であり、実務的にもそのような扱いがなされているところである(松井信憲『商業登記ハンドブック(第3版)』p.408.)。




で、ここからが私見なのだけど、




そもそも取締役の任期は定款で定める他に、株主総会の決議によっても任期を短縮できる(会社法第332条1項)。で、あるから、仮に上記設問において取締役の任期が満了していないとしても、株主総会の決議で任期を限ってしまうことができるわけです。もちろん、取締役が不当に総会の招集を怠るようなことがあれば株主には裁判所の許可を得て招集権を発動する余地もあります(同法第287条4項)。で、あるから、上記設問の場合において取締役が「逃げ続ける」ことは現行制度上、難しいわけですね。




1年を超えない範囲で事業年度の末日の変更もできるので(会社計算規則第59条2項)、この場合は、事業年度を変更するタイミングで役員の改選をしないと任期の起算点の問題が生じ得る。例えば、上記設問において、平成28年10月の定時総会において、従来、7月末決算であるのを3月末決算に変更した場合、平成28年10月の定時総会で就任した取締役の任期は、平成29年3月末日を事業年度の末日とする事業年度に係る株主総会の終結時までになる(相澤哲ら編『論点解説 新・会社法』p.281.)。これは実質的には任期の短縮となろう。




また、定款の任期を途中で変更した場合はどうか。この場合も、反対の意思表示がない限り、現状の取締役の任期もそれに合わせて伸長される(昭30・9・12民事甲1886号回答、前掲書、pp.282~283を参照)。逆に任期を短縮した場合で、在任取締役の選任時から起算するとすでに任期満了している場合には、定款変更時が任期満了になる。過去に遡って退任するのではないのである(松井信憲『商業登記ハンドブック(第3版)』p.384.)。




このように、任期が株主総会の決議によっても変更できる取締役の場合、監査役などと違って、任期の起算点が問題となることが多い。議事録などを作成する場合には実際に任期が満了しているのかどうか、定款の規定と合わせて注意深く見ていく必要があるのである。この点について言えば、旧商法の規定のほうが任期に関して自由度が少ない分、起算が容易であり、会社法施行以後の方が、任期に関して自由度が高まった反面、起算が難しくなったという話はよく聞きますね。

 去年12月に最高裁が、マンション管理組合の理事長は理事会の多数決で解任できる、とする判断を示したわけだけど、これだけだとインパクトが伝わらないように感じた人も多いと思う。
 

 
 そもそも、管理組合について定める「建物の区分所有等に関する法律(以下、「区分所有法」)」では、理事の選任について以下のような条文になっています。




第四十九条 管理組合法人には、理事を置かなければならない。
2 理事が数人ある場合において、規約に別段の定めがないときは、管理組合法人の事務は、理事の過半数で決する。
3 理事は、管理組合法人を代表する。
4 理事が数人あるときは、各自管理組合法人を代表する。
5 前項の規定は、規約若しくは集会の決議によつて、管理組合法人を代表すべき理事を定め、若しくは数人の理事が共同して管理組合法人を代表すべきことを定め、又は規約の定めに基づき理事の互選によつて管理組合法人を代表すべき理事を定めることを妨げない。




 条文上では、理事は「各自代表」が原則であり、規約の定めや集会の決議、あるいは理事の互選によって理事の中から代表理事(理事長)を定めることもできる、という構成になっている。



 管理組合法人は登記簿上、代表権を有する者を登記しなければならないのだが、ここでいう「代表権を有する者」とは、「理事」のことである。もし理事の中から代表理事を定めていた時には「代表理事」が理事として登記されることになる。




 理事の選任について区分所有法で定めている事項はこれしかない。



 解任についての条文は以下の通り。




第二十五条 区分所有者は、規約に別段の定めがない限り集会の決議によつて、管理者を選任し、又は解任することができる。
2 管理者に不正な行為その他その職務を行うに適しない事情があるときは、各区分所有者は、その解任を裁判所に請求することができる。




 理事の解任は区分所有者の共同体である集会の決議で解任できるとするのが原則であり、理事の共同体である理事会において代表理事を解任できる、とはどこにも書いていない。仮にそのような定めが規約にあれば可能であると解せる余地もあるが、代表理事も理事である以上、区分所有者の集会でないと解任できないのではないか?というのが一つの考え方であった。




 このような解釈の不都合が生まれる根本には、国土交通省が定めているマンション管理規約の雛形に、理事長(代表理事)の解任についての定めが置かれていないことにもよる。標準雛形の第35条3項では以下のようになっている。




「理事長、副理事長及び会計担当理事は、理事の互選により選任する。」




 理事長は決して「ワンマン」運営を期待されているわけではなく、標準管理規約においても、理事会の決議事項を尊重することが求められていることは以下の条項からも読み取れる。




「第38条 理事長は、管理組合を代表し、その業務を統括するほか、次の各号に掲げる業務を遂行する。
一  規約、使用細則等又は総会若しくは理事会の決議により、理事長の職務として定められた事項
二  理事会の承認を得て、職員を採用し、又は解雇すること。
2  理事長は、区分所有法に定める管理者とする。
3  理事長は、通常総会において、組合員に対し、前会計年度における管理組合の業務の執行に関する報告をしなければならない。
4  理事長は、理事会の承認を受けて、他の理事に、その職務の一部を委任することができる。」




 また、「規約及び使用細則等に定めのない事項については、区分所有法その他の法令の定めるところによる。」とあり、「規約、使用細則等又は法令のいずれにも定めのない事項については、総会(集会)の決議により定める。」とあることから、「理事長」の解任については集会によるべきである(「規約」にも「区分所有法」にも規定がないため)、と解することも一応はできそうである。




 区分所有法上の「集会」は、会社における「株主総会」と同様に万能機関とされていることから、理事の中の第一人者である理事長を解任する権限を持つことについては殆ど争いがないようである。つまり、集会を開いて理事長を解任できる状況にあれば、理事会で理事長を解任できるか否か?が争いになることはないわけです。問題は、大規模なマンションで区分所有者の集会の充足数を満たすことが難しい場合、あるいは、区分所有者間のコミュニケーションが上手くとれておらず、集会を開くことそのものが困難な状況にある場合、または、管理組合の内部で派閥抗争があり、修繕計画の見積もりや策定の際にデッドロックに嵌り、理事会の運営に支障をきたしているような場合。




 そしてこのような事態は、マンションの「老朽化」や「空室化」の進展、将来の「タワマン」のスラム化の危険性などとともに、のっぴきならぬものとなっていくことが予想されるために、社会問題として捉える必要もある。だからこそ、この判例が注目されたわけです。少し長くなりますが、判決文の重要箇所を引用してみます。




「本件規約は,理事長を区分所有法に定める管理者とし(43条2項),役員である理事に理事長等を含むものとした上(40条1項),役員の選任及び解任について総会の決議を経なければならない(53条13号)とする一方で,理事は,組合員のうちから総会で選任し(40条2項),その互選により理事長を選任する(同条3項)としている。これは,理事長を理事が就く役職の1つと位置付けた上,総会で選任された理事に対し,原則として,その互選により理事長の職に就く者を定めることを委ねるものと解される。そうすると,このような定めは,理事の互選により選任された理事長について理事の過半数の一致により理事長の職を解き,別の理事を理事長に定めることも総会で選任された理事に委ねる趣旨と解するのが,本件規約を定めた区分所有者の合理的意思に合致するというべきである。」




 先日、「カトリック教会の大司教は辞任できるか?」という問題を少し紹介してみましたが、そこでの「辞任(あるいは退任)」と「就任」の関係についての考察に通じてくるものがあるように思います。つまり、規約においては理事長の「選任」についてしか規定されていないけれども、代表権を有する者のポストが一つしかない状況においては、「A氏を選任する」という意思表示は翻って、「B氏を辞めさせる」という意思表示に他ならないのではないか?と推認できる場合がある、というわけです。これを判決文中の表現に置き換えれば、「このような定めは、理事の互選により選任された理事長について理事の過半数の一致により理事長の職を解き、別の理事を理事長に定めることも総会で選任された理事に委ねる趣旨と解するのが、本件規約を定めた区分所有者の合理的意思に合致する」のではないか?というわけです。




 誰かを選任すること、と、解任すること、は全く別の話のように思えるけれども、場合によっては、コインの表裏の問題として捉えることができる。一方で、カトリック大司教や八幡神社の宮司の「意思」が問われなければならなかったように、ここでも、地位を退くことになる「理事長」の意思の探究、は求められて然るべきであるように思います。



 この問題はもちろん、宗教法人における所謂「充て職」の問題とは別なのだけれど、「本人の意思」の探究と「選任機関の規約の趣旨」の両面から、辞任、解任、退任、の是非について考えなければならない、という点では共通しているのです。

PREV ←  HOME  → NEXT
Copyright (C) 2025 雑記帳 All Rights Reserved.
Photo by 戦場に猫 Template Design by kaie
忍者ブログ [PR]