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 昨日は、債権者保護手続きの話が少し出たので、今日は実務上の見過ごされがちな留意点について少しコメントしてみます。



 合併や会社分割などの組織再編においては、債権者を保護するための手続きが法定されていることは周知のとおりですが、具体的なM&Aのプロセスにおいては、債権者も含めた関係者と緊密にスケジューリングを重ねながら進めていくことが通常ですので、組織再編の効力発生日間際になって債権者から突然「異議」が出されるような事態は、一般に考えられているほど多くありません。事前の段階で、こうした組織再編行為について、銀行などの債権者とも交渉を重ねて、議論が熟していることが通常ですので、土壇場になって「不意打ち的に」知れたる債権者から異議が出されるような事態はむしろ一般的ではないのです。




 組織再編について異議を述べることができる債権者がいる場合、会社は、官報による公告と債権者に対する個別の催告をしなければなりません(会社法789条など)。そして、異議を述べた債権者がいる場合には、「当該債権者に対し、弁済し、若しくは相当の担保を提供し、又は当該債権者に弁済を受けさせることを目的として信託会社等に相当の財産を信託しなければならない。ただし、当該吸収合併等をしても当該債権者を害するおそれがないときは、この限りでない。(同法789条5項)」と、されています。




 登記申請の段階においても、異議を述べた債権者がいない場合にはその旨を会社代表者が申述する必要があります(松井信憲『商業登記ハンドブック(第3版)』p.553.)。異議を述べた債権者がいる場合には、債権者の異議申立書と、債権者作成の弁済金受領書、担保契約書又は信託証書等が添付される必要があります(平9・9・19民四1709号通達)。




 然しながら、仮に異議申し立てがなされても、「債権者を害するおそれがない場合」にはこれらの弁済、担保提供行為も必要ではありません(上記条文参照)。さて、ここで問題となるのが、どういった場合に「債権者を害するおそれがない場合」と言えるのか、という問題です。実務上の考え方としては、会社の資産状況、経営状況が良好であって、そのキャッシュフローに比較して異議を述べた債権者の債権額が少額である場合や、十分な担保が提供されている場合(森・濱田松本法律事務所編『組織再編(第2版)』(新・会社法実務シリーズ・9)pp.262-263.)、合併後の会社の財務内容に鑑みて当該債権が弁済を受けることが確実な場合に加えて、合併前から債権者に対して債務全額を弁済する可能性がないところ、合併をしてもその可能性がより低くなることはない場合なども含まれるとされています(玉井裕子ら編『合併ハンドブック(第1版)』p.203.)。




 「債権者を害するおそれがない」ことの立証責任は当該会社が負います。吸収合併の事前手続きにおける書面備置期間には、合併契約書の他、会社法施行規則182条1項5号(消滅会社)及び、同施行規則191条1項6号(存続会社)が定めている、「債務の履行の見込みに関する事項」を記載した書面を本店に備え置かなければならないとされていますが(会社法782条1項1号、同法794条1項)、この事前開示事項を示しただけでは、必ずしも個別の債権者を害するおそれがないことの立証をしたことにはならないとされています(江頭憲治郎『株式会社法(第6版)』p.875.)。実務での取り扱いとしては、十分な被担保債権額を有する抵当権の登記事項証明書や、異議を述べた債権者の債権額、弁済期、担保の有無、合併当事会社の資産状況、営業実績等を具体的に適示し、債権者を害するおそれがないことを会社の代表者が証明した書面を添付する必要があります(平9・9・19民四1709号通達)。




 債権者が異議を述べる、ことの実務上の意味についてももう少し掘り下げてみます。前述したように、M&Aのプロセスにおいては、債権者も巻き込んで入念な話し合いの場が複数回に亘って設けられ、その流れの中で債権者と合併当事会社との間で了解事項が形成されていくのが普通です。当然、会社債権者としては、個別催告を受けて初めて組織再編の計画について知るのではなくて、事前の話し合いの場が十分に持たれた上で債権者保護手続きのプロセスを踏むのが普通だと思われます。その上でなお、銀行などの会社債権者が「異議」を申し立てる理由というのは(異議は口頭で行うことも可能ですが、証拠を残すために通常は内容証明郵便で行います。)、事後的に会社の財務状況が悪化していることが判明した場合や、合併手続きに瑕疵があった場合に備えて、当該組織再編行為の無効を訴える前提を整える意味合いがあります。




 というのも、会社法828条2項においては、当該組織再編行為の無効を主張することができる債権者は、当該組織再編行為について「承認をしなかった債権者」であるとされているからです。つまり、債権者としては、事後的にリスクを負うことを避ける意味でも内容証明郵便で「とりあえず異議を述べておく」のも経営上の判断と言えるわけです。では、組織再編行為自体には反対しないけれども、事後的なリスクに備えてとりあえず異議を述べておきたい、というような場合、このことをもって、会社は、「実際には異議を述べた債権者はいなかった」と抗弁することができるでしょうか?確かに、その債権者は当該組織再編自体に異議を差しはさむ意図はないかもしれません。しかし、それをどのように会社は証明できるのでしょうか?やはり、内容証明郵便で「異議申立書」が送付されてきた以上は、会社が積極的に「債権者を害するおそれがない」ことの立証をする必要があるのではないでしょうか?




 登記申請時には、異議を述べた債権者はいない、ことの申述を会社の代表者が行うわけですから、その申述の最終的な責任は会社の代表者が負うことになるわけですが、仮に内容証明郵便で「異議申立書」が送付されていれば、第三者に対してその事実をもって「異議を述べた債権者はいない」ことを抗弁することは極めて困難です。仮に債権者側がその真意を明らかにしたとしても、民事訴訟上の証拠力が認められる文書に「異議の申述」しかないのであれば、その抗弁は危うい基礎の上に成り立つことになりかねません。となれば、事後的な紛争を避ける意味においても、当事会社の側が積極的に「債権者を害するおそれがない」ことの立証をし、その申述をした書面を残しておくことが有益です。このような立場から、例え債権者の側のリスク回避的な判断として「異議申立書」が送付されてきたに過ぎず、会社と債権者との間にその合意がとれているとしても、「債権者を害するおそれがない」ことの申述をした書面を作成しておくのが無難である、と薦めることができそうです。

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